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「真綾!!」
深谷くんの、叫びに近い呼び声が響いて、思わず涙が引っ込んだ。
駅の改札を通ったまでは気丈を保つことができたんだけど、階段を上る前、どうしても涙が止まらなくて。
一人で泣きじゃくってしまった私を見かねたのか、通りすがりの男の人二人が声をかけてくれた時だった。
深谷くんはすごく必死な表情で、私と男性達の間に入った。
そして
「すいません、俺の彼女なんで」
無意識なんだろうか、まるで私を隠すように両手を広げる深谷くん。
男性の一人が、気まずそうに苦笑いをした。
「なんだ、痴話喧嘩か」
「あんまり彼女泣かせんなよ」
もう一人の男性の言葉に、真っ赤になって会釈する深谷くん。
初めて見る、慌てた様子で必死になる彼に、私はなんだか嬉しくなって、涙を拭いながらニッコリと笑った。
男性達が去ったあと、深谷くんは私に向かって深く頭を下げた。
「ちょ……深谷くん!?どうしたの!?」
すると彼は、思ってもみなかった事を口にした。
「ごめん。俺、真綾が初めて誘ってくれたから、嬉しくて。今日一日、ずっと浮かれてたんだ。……疲れさせてごめんな」
「………………」
依然顔を赤らめながら一生懸命話す深谷くんに心を打たれて、引っ込んでいた涙がまた滝のように流れ始めた。
「真綾!?大丈夫か!?」
まさか。深谷くんがそんなふうに思ってくれていたなんて。そんなの、思いもしなかったから。
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