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____「真綾」
彼女の名前を呼ぶのは、未だにドキドキする。
俺に笑いかける真綾が可愛くて仕方なく、ニヤニヤしそうになるのを必死で我慢した。
付き合って一年も経つのに、どうして全く慣れないんだ。
好き過ぎて、まともに目が見れないなんて、とてもじゃないが彼女に言えるわけがない。
そっと彼女の手が俺の手に触れると、心臓が止まりそうになる。
もしかして、手を繋ぐ……
「あげる。これ食べて血糖値上げて」
彼女が手渡したのはハート型のクッキーだった。
……可愛い過ぎるだろ、おい。
食えねえよ、もったいなくて。
帰って宝箱に入れよう。
ちなみに箱の中には、中学の時から真綾に貰ったプレゼントや手紙が全て入っている。
それを眺めるのが、至福の時間なのだ。
貰ったクッキーをポケットにしまい、さっき真綾の手が触れたところに全神経を集中させる。
これで今日は頑張れそうだ。
混雑している電車の中では、いつも何を話していいかわからない。
窓の外を眺めているふりをしながら、どんな話題を振ろうか必死に考えこんでいると、突然車内が大きく揺れた。
「わ!」
真綾が咄嗟に俺の腕を掴んだ。
彼女の体がぴったりとくっついて、今度こそ倒れそうになる。
「ごめん」
至近距離で囁く彼女の声はすげえ色っぽい。
ああ、たまんねえな。
本当に好きだ。
「いや、別に」
なんて答えるのが精一杯で。
思い切り抱き締めたくなるのを不屈の精神で乗り切り、それでもどっかしら触りたくて、支えるふりをしながら彼女の肩にそっと手を添えた。
撫で肩で、華奢な体。
細い腕。細い首。
全てが愛しくて、守ってやりたいと強く思う。
誰にも渡したくない。
つーか真綾が誰かに見られるだけで腹が立つ。
見んなオヤジ、さっきから。気づいてんだぞコラ。
「じゃあ、私行くね」
オヤジを睨み付けているうちに、彼女が降りる時が来てしまった。
また、何も話せなかった。
「帰り、迎えに行くから」
帰りこそは、もっと距離を縮めよう。
早くも下校が待ち遠しい。
電車の外から両手で手を振る彼女が見える。
……殺人級に可愛い。
彼女の姿が見えなくなると、ポケットに手を突っ込み、さっき貰ったクッキーに触れた。
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