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「おはよマーヤ!って顔色わるっ!」
教室に着くと、友達の郁子が目ざとく私の心境を察知した。
「さては、今日も例のカレと会ってたな」
「うん」
郁子には、深谷君のことを結構詳しく話している。
奇跡的に付き合えたことも、それなのに深谷君が素っ気ないことも。
「そんなに悩んでんならさ、もう別れちゃえば?」
彼女は普段とても優しい人間だけど、定期的に塩対応をして私の傷口を刺激する。
「それだけは無理!だって奇跡的に……」
「奇跡奇跡言うけどさぁ、今はもう違うんじゃない?」
……今は違う?
「そりゃあ確かに中学の時はそうだったかもしんないけど。正直言って入学当初のあんたヤバかった!育てんのに苦労したよ」
「郁子様、その節はお世話に……」
郁子の言う通り、中学から高校入学までの私はかなり地味で田舎くさく、パッとしない女子だった。
それを今時の女子高生に変えてくれたのが(根本的には変わっていないが)郁子。
制服の着方から眉毛の整え方、髪型やメイクまで、本当に一から十まで彼女に教わった。
「見てごらん、あっち」
郁子が指差した方向を見ると、知らない男子達がこちらに手を振っている。
「あんたはもう、例のカレと不釣り合いな地味女じゃないってことよ。なんなら、新たな奇跡を手にすることだってできる!」
「そんな……無理だよ。私は深谷君しか」
「あんたがそこまで"深谷君"に拘る理由ってなんなの?どこがそんなに好きなわけ?」
「それは……」
ホームルームが始まって、郁子はしぶしぶ席へ戻る。
先生の話を聞き流しながら、私はずっと深谷君と出会った時のことを思い出していた。
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