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祭りの朝
祭りの朝は例年通りの快晴だった。
サーシャは息を整えるために、腕に抱えていたたくさんの食材の入った袋を下ろして顔を上げた。
この日のために用意された村伝統の晴れ着を身につけた子供達が、そこかしこで駆け回っている。
衣装を彩る刺繍は鮮やかで、集まった人々がお互いの衣装を褒めあうのを聞いてサーシャは誇らしい気持ちになった。
美しい刺繍は、女性たちが1年かけてほどこす。
この村に代々伝わる特別なものだった。
サーシャは今年初めて刺繍を衣装にほどこした。
サーシャが担当したのは小さな子供達の衣装だった。
目の前を笑顔で走り回っているこの中の何人かは、サーシャがほどこした刺繍入りの衣装を身につけてくれているのだと思うと、嬉しい反面、少し気恥ずかしい。
母や祖母たちがほどこしたものと比較してしまうと、サーシャの刺繍は弱々しくて頼りないものだった。
子供達がすねたり悲しい顔をしたりしたらどうしようと思っていたが、誰が誰だかわからなくなる勢いではしゃいでいる様子を見るとそんな心配は杞憂だったようだ。
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