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ほんの少し前までは3人もこの広場を駆け回って祭りを過ごし、夜になると疲れて眠り込んでしまっていたように感じていたのに、ただ走り回っているだけではいられなくなっていく。
何も変わっていないように見えても、着実に時間が流れていることを毎年この祭りの時に実感する。
「そりゃそうよ。毎年毎年飽きるくらいの思い出を聞いてるんだから誰かの一生分くらいの思い出は語れるわよ。まだ20歳なのに」
カトリーナが思いっきりしかめ面をしてみせる。
小さな頃から変わらないその表情にサーシャが思わず吹き出すと、
「ちょっと、笑い事じゃないんだから。過去だけじゃなくて未来のことも語らせてほしいわよ」と、カトリーナがふくれた。
「ごめんごめん」
カトリーナの言うことも正しい。
お詫びにサーシャの分のワインを少し分けてあげると
「あら、ありがとう」
すぐに機嫌が直る。
「俺もカトリーナに賛成。明日になったら思う存分未来を語ろうよ」
「そうね」
サーシャもうなずく。
東の空がぼんやりと明るくなってきた。もうすぐ祭りの終わりの時間が来る。
「寒くないかい?」
柔らかな声がかけられた。
神父さんがサーシャとカトリーナに毛布を差し出しながら、微笑んでいた。
「あったか?い」
「ありがとうございます」
顔をうずめると太陽の香りがする。
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