…第4章 麻衣と涼太

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「すみません。お金払います。いくらでした…じゃなくて、いくらだった?」 お財布を取り出そうと慌てる私に、 「ああ、今日はいいよ。俺にご馳走させて?」 って、涼太先輩は穏やかに返してくれる。 「ええっ。でも、先週のイタリアンもご馳走になったばっかりなのに。」 思えば、涼太先輩にご馳走してもらったことは何度もある。 いつものメンバー、彩香先輩と濱野先輩と一緒の時だって、私の分だけ何度かご馳走になったことがあるし。 その度に彩香先輩が、 「なーに餌付けしてんのよ!」って突っ込んでいたことをふと思い出す。 「今後はファミレスとかファーストフードに行ったり割り勘もあるかもしれないよ。だから、美味しいものを食べた時くらいはご馳走させてほしい。」 「ご馳走になってばかりで申し訳ないなぁ…。」 今までだってたくさんご馳走になったのに。 「いいよ、ご馳走したいって言った時は素直に甘えてくれるほうが嬉しいから。」 でも、涼太先輩は全然気にしていないみたい。 「…じゃあ、お言葉に甘えて…ご馳走様でした。おでん、美味しかった。」 感謝の気持ちを込めてありがとうを伝えた。 「うん、よかった。じゃあ、帰ろうか。」 ビルの階段を一段上るごとに、外の冷たい空気に触れる気がする。 階段を上り切って地上に出たら、空の色はだいぶ暗くなっていた。 それでも、駅前通りの明かりが煌々と灯っていて駅までの道は明るいくらい。 地上に立った途端冷たい風が吹いて、ぶるっと体が震えた。 「さ、さむい…。」 このビルは残念ながら駅直結の連絡通路には繋がっていないから、駅まで少し歩く必要がある。 寒さに肩を竦めて歩き出そうとしたら、 「麻衣ちゃん、手を繋いでもいい?」って、涼太先輩に言われた。
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