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手袋はまだバッグの中に入ったまま、身に付けていなかった。
ちょっと緊張するけれど…。
「はい。」と答えながら右手を差し出した。
差し出した右手は、涼太先輩の左手にそっと包まれた。
わ、大きい。
包み込んだ涼太先輩の左手は大きくて温かい。
「麻衣ちゃんの手は、小さくて柔らかいね。」
そう言った涼太先輩の顔を見上げたら、今までに見たことのない角度から涼太先輩を見つめていることに気づいた。
隣りに並んで歩いたことは何度もあるけれど、今まで涼太先輩をこの角度から見上げて会話をしていた記憶がない。
私は、いつもどこを向いて話していたんだろう。
今まで、本当に涼太先輩を意識してなかったんだなぁと実感してしまう。
手を繋ぐ、ただそれだけでこんなに近く感じるなんて。
緊張して手汗かいてないかな、なんてちょっと心配になりながらそのまま駅に向かって歩き出す。
ヒールのブーツで歩く私に合わせてくれる、涼太先輩の歩調はゆっくりめ。
「ひゃっ…!」
びっくりして変な声が出てしまった。
突然涼太先輩が繋いでいた手を開いて、指と指を絡めて繋ぎ直したから。
「ごめんね、嫌だった?」
ちょっと心配そうに、窺うように聞いていた涼太先輩。
「嫌じゃないです。びっくりしちゃっただけで。」
絡められた指を、そっと握り返した。
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