…第4章 麻衣と涼太

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最寄り駅の階段を上がって地上に立つと、乗車前よりももっと寒い空気が頬を刺した。 さっきまでいた明るい喧騒の中とは打って変わって、住宅街は暗くて静か。 改札を抜けた時に一度離れた手は、また自然と涼太先輩の温かい手に包まれていた。 「コンビニ寄らなくて大丈夫?」 駅のすぐそばの、いつものコンビニに視線を向けながら涼太先輩が聞いてくれた。 「だいじょうぶ。」 「じゃあ、行こうか。」 さりげなく車道側を歩いてくれる涼太先輩と歩き出した。 地下鉄に乗る前と同じく、ヒールのブーツを履いた私に合わせてゆっくり歩いてくれる。 人通りの少ない静かな住宅街の歩道では、その寒さが露出した顔や耳を一層刺してくるように感じられた。 だからこそ、繋がれた手が優しくて温かい。 空は漆黒の色を映し出している。 遠くまで見渡しても、月はどこにも見えない。 そうか、今日は新月なのかもしれない。 これまで何度も蓮太郎と歩いた駅からマンションまでの道のり。 今、私は恋人になったばかりの涼太先輩と手を繋いで歩いている。 優しくて面倒見のいい涼太先輩は、これから先もこうやって何度もマンションまで送り届けてくれるような気がした。 何故か…突然胸がいっぱいになってしまって。 ただ、深く深く息を吸って静かに吐き出す。 冴え渡った空気が肺に取り込まれて、心の奥底のもやを連れて出て行った。 月が照らさない暗い夜は静けさと凛とした気配を纏っている。 これからは、涼太先輩とこの道を歩いて帰るようになる。 どんな季節も、手を繋ぎながら。ずっと。
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