…最終章 麻衣

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蓮太郎がコートを掛けに行ってくれたので、つい店内をきょろきょろと見てしまう。 外観もレンガ造りの建物だったけど、内装にも石畳のようなレンガが壁面に敷き詰められている。 その壁面には、黒いフレームに収められたモノトーンの写真が等間隔に並んでいた。 平屋の独立した建物のようなのに、少し天井は高め。 照明はダクトレールから吊り下げられた真鍮ソケットに電球の嵌め込まれたペンダントライト。そんな変わった形の照明が、各テーブルに柔らかくも丸い、不思議な形の影を落としていた。 照明の光を受けて飴色に輝くカウンターには、乳白色のキャンドルホルダーが等間隔に置かれていて、キャンドルの炎がゆらゆらと温かな雰囲気を醸し出している。 大人っぽい雰囲気なのに、どこか優しくて。 一目でこのお店が気に入ってしまった。 コートを掛けに行ってくれた蓮太郎が隣に腰を下ろしたので、ついこそこそと話しかけてしまう。 「中も素敵なお店だね。」って。 「…だな。」って蓮太郎も反応を返した。 あっ、嬉しそう! 長年の付き合いで分かるようになった、蓮太郎の嬉しそうな時の顔。 笑顔とはまた違う、ほんの少しだけはにかんだ表情をしたのが分かった。
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