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笑顔を向けた麻衣の頭をくしゃっと撫でて、俺は玄関を出た。
これくらいは許せ。
カシャンと鍵をかける音を聞いて、俺は廊下を歩き始めた。
「…っぶねー。」
思わず独り言が漏れた。
甦る感触。
触れた柔らかな髪。
抱きしめた麻衣の身体。
繋いでいた手の温もり。
キスをねだる、柔らかそうな唇。
今夜の麻衣は、俺だけのもの…だった。
本当は、あのまま抱きしめたかった。
柔らかい頬に手を伸ばして、唇を奪いたかった。
でも、きっとあれでよかった。
どんなに酔っ払っても、その責任は自分にあるんだから。
俺が欲望に負けて手を出して、麻衣を後悔させる事態に至らなくてよかったんだ。
これからも、また麻衣と飲みに行く夜もあるだろう。
どんなに酔っても、あんな姿は誰にも見せないで。
鍵をかけて、何度閉じ込めたくなったとしても。
きっと、こうして送ってくるから。
気持ちを伝えられない臆病な俺に出来るのは、「一番の男友達」でいることだけ。
エントランスを抜けて外に出た瞬間、冷たい空気が頬を撫でた。
手袋を付けていない手はすぐに冷えて、思わずコートのポケットに手を入れた。
コートのポケットには、まだ麻衣の手の温もりが残っている気がした。
明日からは一番の男友達に戻るから。
今夜だけは、さっきの余韻に浸らせて…。
バーボンとカシスソーダ END
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