…最終章 麻衣

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ジッポの音がして、ふいに隣から煙草の匂いが漂ってきた。 蓮太郎が煙草を吸ったみたいで、横目で見ると白い煙がゆらりと上がっていくのが見えた。 ふうっと吐き出す蓮太郎の息も、白い煙がまるで生き物のように揺れる。 蓮太郎の大きくて骨張った指が挟んでいる煙草からは、絶えず煙が立ち上がっている。 スーツ姿の蓮太郎は、いつもより大人っぽく見える。 ネイビー色のスーツに、薄い水色のワイシャツに、ネイビー色のネクタイ。 昔から、シンプルなのに洗練されて見えるオシャレな格好が多かった蓮太郎。 まだ新採一年目のはずなのに、リクルートスーツに着られてるような堅苦しさは最初から無くて、スーツを着こなしているように思えるくらい。 葵さんの影響なのかな。 しばらく会えていない蓮太郎にそっくりな叔父さん、葵さんの姿が思い浮かんだ。 いつのまにか煙草を吸うようになっていた蓮太郎。 スーツに身を包んで、ビジネスマンがつけるような腕時計をして、磨かれた靴を履いて。 バーボンを飲みながら煙草の煙を揺らす蓮太郎は、どこか別の世界の人みたいに見えた。 大学生の頃は、毎日のように一緒にいたのに。 涼太と付き合うようになって、週末はほとんど涼太と過ごすようになって。 少しずつ少しずつ、蓮太郎と会う頻度が減っていって。 そのうち、お互いに忙しくなっていった。 でも、「ずっと大切な男友達」だから、繋がっていたくて。 その繋がりを断ち切りたくなくて。 就職してからは、意識的に蓮太郎に会う時間を作った。 月に一回くらいが限度だけど。
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