…最終章 麻衣

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お互いに言葉を発しない、静かな空間。 バーボンを飲み干してグラスを空にした蓮太郎の視線は、宙を見ているようで、もしかしたら何も映していないのかもしれない。 隣に座っているはずなのに、何故か遠い。 遠くに行ってしまわないで。 ずっと友達でいて。 そう言ってしまいそうになったけれど、口に出す寸前で思いとどまった。 代わりに、蓮太郎に呼び掛けた。 「蓮太郎?」 宙を見ていた蓮太郎の視線が戻ってきて、目が合った。 珍しく、考え事でもしていたのかな。 「ボーッとするなんて珍しいね。やっぱり師走だから忙しい?疲れてない?大丈夫?」 「ああ…悪い。ちょっとボーッとしてたみたいだ。大丈夫。」 大丈夫ならいいんだけど。 二人の間で、持ち上げたカシスソーダのグラスの氷がカランと音を鳴らした。 そういや…と蓮太郎が話し出した。 「もう3年も付き合ってんだな。このまま結婚すんのか?」 蓮太郎の視線が、左手の指輪に注がれているのが分かった。 どうやら、さっきの話の続きみたい。 「結婚?どうだろうね。」 今年就職したばかりで、結婚なんて自分にはまだまだ縁遠い世界のことに思える。 でも、涼太はそう思ってくれている。 この指輪をもらった時の会話が過ぎった。 「…涼太は、そう言ってくれてるよ。」 そっと付け足した。 「へー、アイツ本当に物好きな男だな。」 そう驚いたように言った蓮太郎に、 「何それ!蓮太郎ってば本当に失礼だよね。」 わざとプンプンと怒った顔を作って返す。 もちろん、本当に怒ってる訳ではないけれど。 それは蓮太郎も分かっているのか、ハハッと笑っていた。
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