151人が本棚に入れています
本棚に追加
お互いに言葉を発しない、静かな空間。
バーボンを飲み干してグラスを空にした蓮太郎の視線は、宙を見ているようで、もしかしたら何も映していないのかもしれない。
隣に座っているはずなのに、何故か遠い。
遠くに行ってしまわないで。
ずっと友達でいて。
そう言ってしまいそうになったけれど、口に出す寸前で思いとどまった。
代わりに、蓮太郎に呼び掛けた。
「蓮太郎?」
宙を見ていた蓮太郎の視線が戻ってきて、目が合った。
珍しく、考え事でもしていたのかな。
「ボーッとするなんて珍しいね。やっぱり師走だから忙しい?疲れてない?大丈夫?」
「ああ…悪い。ちょっとボーッとしてたみたいだ。大丈夫。」
大丈夫ならいいんだけど。
二人の間で、持ち上げたカシスソーダのグラスの氷がカランと音を鳴らした。
そういや…と蓮太郎が話し出した。
「もう3年も付き合ってんだな。このまま結婚すんのか?」
蓮太郎の視線が、左手の指輪に注がれているのが分かった。
どうやら、さっきの話の続きみたい。
「結婚?どうだろうね。」
今年就職したばかりで、結婚なんて自分にはまだまだ縁遠い世界のことに思える。
でも、涼太はそう思ってくれている。
この指輪をもらった時の会話が過ぎった。
「…涼太は、そう言ってくれてるよ。」
そっと付け足した。
「へー、アイツ本当に物好きな男だな。」
そう驚いたように言った蓮太郎に、
「何それ!蓮太郎ってば本当に失礼だよね。」
わざとプンプンと怒った顔を作って返す。
もちろん、本当に怒ってる訳ではないけれど。
それは蓮太郎も分かっているのか、ハハッと笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!