…第1章 麻衣と蓮太郎

29/31
150人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
何でこうなってるのか理解できなかった。 私の上に覆い被さった蓮太郎は、私の両手を絡め取り頭の上に固定した。 押さえ付けられた両手は、びくともしない。 なんで?どうしたの? …って言いたいのに、言葉が出ない。 「れ、れんたろう?」 何とか呼んだ声は、掠れていた。 蓮太郎は、何も言わずに私を見下ろしている。 この沈黙が怖い。 どうしよう…何か言わなきゃ。 そう思った時に、蓮太郎が動いた。 蓮太郎の整った顔が、鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの近さまで近づいてきた。 蓮太郎から、目が離せない。 ドキドキと、動悸がうるさい。 「麻衣は男を知らなすぎる。」 ……え? 「男はな、恋愛感情ない女にもこんなことできるんだぞ。」 そう言いながら、唇を私の耳元に寄せて、フッと息を吹きかけた。 「ひゃあっ。」 変な声が出てしまった。 「こんなことするのも簡単。」 私の両手を押さえつけていた片方の手を外して、その手が私の身体すれすれを辿った。 胸から、ウエストを通って、太ももへ。 触れそうで触れないギリギリなのに、まるで触られているようだった。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!