形だけのカップルってありですか?

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「美麗さん、ここに来てウェストのところでメジャーを押さえてて、望ちゃんの脚を測るから。うわっ、長いな。これはドレスにいいラインが出せそうだ。望ちゃんは本当にプロポーションがいいよな?」  望のウェストにメジャーの端を当てながら上半身を少し倒した美麗に、床に屈んで手をついたままの猛が同意を求めて振り仰いだが、ん?と一瞬動きを止めて、頬を少し紅潮させた美麗をしげしげと見つめた。  猛の視線に気づくまで、美麗は望がモデルに請われた意味を目の当たりにしていた。店から借りてきたビスチェには細かい刺繍やレースがふんだんに施され、キュッとウェストが絞られ、胸を繰り出された望は、そのまま雑誌に載っていてもおかしくないほど美しかった。   普段ボーイッシュな服しか着ない望を見慣れている美麗が、見とれてしまったのは無理のないことで、悟られぬように背けたものの、目ざとい猛に見つかってしまった。  美麗がさっと表情を隠したのに気が付き、猛が目を見開く。 「美麗さん、まさか……」 「おいっ、無駄口叩いてないで、早く済ませてくれ」  志貴が怖い顔で猛を急かすが、猛の興味は美麗に移ってしまっている。 「どうりで、俺がちょっかい出そうとすると邪魔したわけだ」  能面のように表情を無くした美麗の顔は、心無しか青ざめ、睫毛が震えているように見える。  猛の訳の分からない言葉で、美麗どころか、望の腕を支える志貴にも緊張が走ったように感じて、望はぴんと張り詰めた空気にチリチリと肌をなぶられるようで不安になった。
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