形だけのカップルってありですか?

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 望がパイプ椅子の背に掴まりながら立ち上がる。自分が悪いなのら反省するが、知らないことで非難されるのは敵わない。  はっきり原因を教えて欲しいと猛を強い眼差しと共に問い詰めると、猛が答えるより早く、今まで黙っていた美麗が口を開いた。 「望が振り回したんじゃない。何も知らないで望を責めるのは間違ってるわ。それに、もし真実を言ったとして、誰がどう救われるの?」 「別に隠すことじゃないだろう?俺たちの世界じゃあ、LGBTなんて珍しくないし、異性だけじゃなくて同性にももてるんだと知ったら……わっ!」  猛が志貴に突き飛ばされて床に転がり、志貴がいい加減にしろと怒鳴りつけるのを、美麗が慌てて止めようとする。  今までの会話から考えて、望はありえない考えに辿り着きそうになり、首を振ってその考えを追い払うと、誰かが後を引き取って答えてくれるように願いながらそれを口にした。 「LGBTって……」  だが、今まで勢いの良かった猛も、床に座ったまま望の視線を避けるように横を向くだけで、誰も答えようとしない。望が懸念を抱いて美麗を見つめると、苦渋にゆがんだ美麗の目に涙が浮かんだ。 「望には…知られたくなかった」 「美麗?…同性にもてるって…そんな……」    望の驚いた顔に一瞬怯んだものの、美麗はすぐに諦めたように、望に悲し気な目を向けた。そして、望が絶句した空白に続くだろう言葉、気が付かなかったことへの悔恨や、謝罪を聞かずに済むように、一気にぶちまけた。 「一緒にいられるだけでよかったのに……気持ち悪いよね?ごめんね。  嫌われついでに言っちゃうと、望と両想いになりそうだった男の人を誘惑して、くっつかなくしたのは私なの。望はもてなかったんじゃない。悪いのは私で、望は悪くないんだから……」    望みが手痛い過去の呪縛から解かれて自信を持てるなら、いくらでも自分を憎めばいいと思うのに、話すそばから後から後から涙が湧いてきて、美麗はしゃくりあげながら何とか言い終えると、その場を逃げるように走り出した。
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