形だけのカップルってありですか?

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 望は聞いたことがあまりにもショックで、これが本当に現実なのかと疑ってしまい呆然自失で立ち尽くし、我に返ったのは、美麗が部屋から出ていくためにドアを開けた時だった。  待って!と呼び止めたが、美麗は振り返りもしないで去っていく。追いかけようとしたが、松葉づえが無い脚では無理だった。  望が単に人の好意に甘えていたのではなく、美麗の嫉妬が望の自信を奪っていたと知った猛は、全く間違った部分を自分が突っついたことを知り、立てた膝に肘をついて頭を抱えこんだ。  消沈した猛を見下ろしながら、志貴が追い打ちをかけるように、だからやめろと言ったんだと詰る。 「自分のいる世界が常識だと思うな。情熱だの真実だのが評価されるのは芸術などの特殊な世界の中だけだ。俺たちが社会面で求められるのは、相手の意向を汲む協調性だ。お前みたいに自己主張を繰り返せば、波風を起こして、まとまるものもまとまらなくなる」 「でも、望ちゃんは騙されてたんだぞ?それで自信を失ったなら、真実を知って、自分の価値を見直した方がいいんじゃないのか?」  美麗を追おうと片足で扉まで行きかけた望が、猛の言葉に反応して振り返り、強く首を振った。
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