形だけのカップルってありですか?

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「本人が望んでいないのに、関係のない人が気持ちを暴いちゃいけないと思います。今井さんから見たら私は騙された被害者かもしれないけれど、美麗だって苦しんでいたと思います。もしかしたら、時期を見て、いつか自分から打ち明けてくれたかもしれないのに、美麗を追いつめて、言わせたくなかった」  片足を上げたままの様にならない恰好なのに、望からは心から人を信じる気持ちが内面から滲み出ていて、猛には美しく感じられた。  皮肉なことに、普段整い過ぎて冷たく感じられる表情は、悲しみで歪んで人間味を増している。  性癖と望への気持ちを暴かれた美麗も、望に負担にならないようにと考えたのか、過去を晒し、望に嫌われるように仕向けていった。  ああ、こういう相手を思い合うってやつは、服じゃあ表せないなと猛は感動したが、芸術家としての好奇心が収まりどころを知らず、まだ追求をやめられない。 「望ちゃんってさ、自己否定が強いじゃん。それって美麗ちゃんのやったこともあるけれど、容姿のコンプレックスから来てるんだろ?もし、綺麗だと認められていたら、もっと自分を解放して楽しい思い出があったと思わないか?」 「今井さんは私に自信を持てと言うけれど、もし、きれいだとちやほやされて変に自信を持っていたら、私は人の痛みも知らない傲慢な人間になっていたかもしれません。コンプレックスとか悩みがあるから、人って深みがでるんじゃないかなって、最近あることを知って、そう思ったんです」  志貴の顔をじっと見つめながら、望は最後の言葉を投げかける。  その視線を言葉ごと受け止た志貴は、兄のところで知られた過去の話だと察した。
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