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望は脚を痛めてから、着替えや開店準備に時間がかかることを考慮して、かなり早い時間に出勤しているが、店内に入ると既に事務所に明かりがともっていて、誰かが先に来ていることを知った。美麗だろうか?と、どきどきしながら事務所を覗くと、こちらを振り返った長身と目が合った。
「望、おはよう。身体は大丈夫か?」
「し…志貴さん。お、おはようございます」
ぶわっと熱を持った頬を持て余しながら、何とか挨拶を返したものの、望は自分が瞬間湯沸かしケトルにでもなったように感じて恥ずかしくなる。
大きなスライドで、数歩で距離を縮めてきた志貴に抱き寄せられ、望は身体の中が発火するように感じた。望の背後を確かめた志貴が、慌てふためく望の頤を指で上げて口付けると、望の頭から理性が転げ落ち、この瞬間を得るためならどうなってもいいとさえ思った。
志貴さんが好き!今はこの人のことしか考えられない!
志貴の背中に手を回し、力一杯抱きしめると、志貴も堪えている気持ちを吐き出すような長い溜息をついた。
カタンという音がして、志貴と望が驚いて振り返ると、事務所の入口を覗く廊下に、青い顔をした美麗が立っていた。
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