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美麗は言葉を探すが、出てしまった本音は引っ込められず、今更親友として祝うふりもできなくて、自分は何てことを口走ったのかと半ばパニックになった。
それでも何とか気持ちを抑えようとしていた美麗は、志貴が近づいて大丈夫か?と肩に手を置こうとした瞬間、反射的にその手を払い落としてしまった。
「触らないで!望を変えた手で、私に触らないで!」
美麗はそのままビルの廊下へと続くドアを開け、逃げて行こうとしたとき、ガタンという音が聞こえ、思わず振り向いた。
その目に松葉づえが転がり、美麗を追おうとした望の身体が傾斜して、床に倒れるのが映った。
「美麗、ずっと気が付かなくて、ごめんね。今まで傷つけてばっかりでごめんなさ……」
望の語尾が震えて、肩を震わせしゃくりあげるのを聞いているうちに、美麗の胸が後悔で一杯になった。
「望が悪いんじゃない。私が勝手に思ってただけだから…。おめでとうって言えなくてごめんなさい」
美麗の目にも涙が盛り上がり、ぽたぽたと胸やスカートに落ちて沁みを作っていく。望が首を振って、美麗に手を伸ばすと、美麗はぎゅっと目を瞑り、苦しそうに肩で息をした。
お願いだから振り払わないで、手を取って欲しいと望が心の中で必死で願っていると、美麗の瞼がゆっくりと開き、美麗は望の知っているいつもの美麗になって、望に近づき助け起こそうとした。
「待ってるから。美麗がおめでとうって言ってくれるまで、私は志貴さんと二人で会うのを止める」
志貴が何かを言いたげにこちらを見るのが分かったが、望は知らないふりをした。
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