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「美麗が傷つくのを知っていて、志貴さんに会っても幸せになれないから」
望みの言葉を聞いた途端、望を助け起こそうとして握った手をパッと振りほどき、腕を組んだ美麗が憎まれ口を叩く。
「私に罪悪感を背負わせて、無理やりおめでとうを言わせる気?そんなんじゃいつまで立ってもおめでとうなんて言ってあげられないし、佐久間リーダーだって逃げるわよ」
「美麗?」
「必死で佐久間リーダーを思っていた望はかわいかったけど、女になった途端に、ずるさまで身につけちゃったんだ。あ~あ、幻滅しちゃった」
わざとらしい大きなゼスチャーをしながら、軽いテンポで話そうとしているが、幼いころから一緒にいる望には、美麗の気持ちが嫌というほど伝わってくる。
楽しいことを言うときは、人はリラックスして明るい声音になり、声に強弱が出る。
喉に力が入って声が抜けずに平坦になり、瞬きが少なくなるのは、美麗のように、偽りを真実として相手に信じ込ませようと必死になっているからだ。
でも、今は決して、それが芝居だと気付いてはいけないのだ。美麗の精一杯の優しさを、しっかりと受け止めなければならない。望は奥歯をしっかりと合わせ、瞼にも力を入れて泣くまいとした。
「望なんて、こっちからふってあげる」
美麗の声は上ずっている。望の顔はいつの間にか泣き顔になっていたが、涙はこぼさず、ただ、うん、うんと頷いていた。
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