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「この神社は縁結びの神として知られていますが、こんな話があるのです。実はある娘が、意中の者ではなく、自分の家よりも格が高い者との縁談が打診されて断れなくなり悩んでいました。当時の宮司が本来の運命の相手と結ばれることができるよう、取り計らったのが始まりなのです」
「えっ?じゃあ、お願いすれば恋が叶うご利益はないのですか」
下心があっただけに、望は思わず身を乗り出して尋ねてしまい、孝登はまぁまぁ早まらずにと望を制してにっこりと笑った。
「確かにこの神社の由来は、宮司の策略からきているのかもしれませんが、同じ願望を持つ参拝者が集まれば、それに通じる霊力が大きくなって現れ、霊験あらたかな神社として崇められるようになりました。ただし、叶えるためには、本人たちの努力もいるでしょうし、願いの真剣さにもよるでしょう」
それはそうだと望が頷いたときに、孝登が望を通り越して後方に視線を向けた。
「えっと、そちらの背の高い男性、佐久間さんとおっしゃいましたね?
もし、願うだけで叶うとしたら、三角関係の3人が同時に願った場合、どうなると思いますか?」
孝登が望の後ろに控えていた佐久間に問いかけると、いつも冷静で、例え顧客に難題をふっかけられても、態度を崩さずに最適な案を出すはずの佐久間が、眉根を寄せて明らかに困惑しているような表情を見せた。
1年近くも佐久間の傍で、その仕事ぶりや、頭の回転の速さを見ていた望は、佐久間の動揺は急に質問を振られたからではなく、佐久間に何か思い当たることがあるのではないかと胸がざわついた。
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