過去との対峙

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「私のためにご迷惑をおかけしてすみません。佐久間リーダーから、お兄さんのことを聞くのは初めてですよね?おいくつぐらい違われるんですか?」 「5歳年上で、結婚もしている。この7年間会っていなかったんだが、さっき遊歩道を上っている時にふと思い出して、和倉には悪いけれど訪ねる口実にさせてもらった」 「7年間も会っていなかったんですか?あの、土曜の午後って大抵は休診ですよね?久しぶりに顔を合わせるのに、私の診察をしてもらって大丈夫なのでしょうか?」  狼狽える望をミラー越しに見た佐久間が、フッと笑いながら、大丈夫だと答えた。 「ちょっと訳ありで、避けていたんだ。もうそろそろ時効にしないと、俺が実家の稼業を継いだ時に、兄夫婦と顔を合わせずらいからね。和倉がいてくれて助かる」 「いえ、それならいいのですが……。訳アリというと、タブーな話とかありますか?知らずに地雷を踏みたくないので」 「ああ、そうだ!タブーといえば、電話で兄から言われたんだが、奥さんが先月流産したばかりだから、子供の話はしないで欲しいということだ。和倉も気に留めておいて欲しい」 「分かりました。でも、実家の稼業を継がれるっていうことは、佐久間リーダーは今の会社をやめるつもりなんですか?」  望の不安そうな声を聞いて、佐久間がまたミラーで望の顔をちらりと見た。 「そんな捨てられた仔犬みたいな顔をするなよ。まだまだ先の話だよ。俺の実家はリゾートホテルと旅館を営んでいて、長男が旅館を継いだんだ。次男は客に媚びることができないと言って医者になったから、必然的に三男の俺がホテルを継ぐことになるんだ」 「だったら、どうして普通の旅行会社に就職しなかったんですか?その方がコネクションができてホテルを継いだ時にお客さまを回してもらえそうじゃないですか?」  望にとっては何の気も無しに尋ねたことだったが、佐久間はすっと表情を消して考え込んでしまった。
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