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狭くて薄暗い廊下から明るい店内のロビーに入ってすぐ、望の目に飛び込んできたのは、外商から帰った佐久間志貴が、フロアの三分の二を占めるレンタルドレスコーナーを見て回っている姿だった。
百八五cmはあるすらりとした肢体、ぜい肉のない引き締まったスタイルの良い後ろ姿に目が釘付けになり、望は気持ちが高揚して頬が熱くなるのを感じた。
望より4歳年上の佐久間は、去年までカウンターのリーダーをしていて、新入社員の望に一から仕事を教えてくれた優秀な社員だ。
男性的な外見からは想像できない細やかな気配りができるので、横についていた望には、来店客の満足が手に取るように分かり、理想社員の佐久間に追いつきたいという気持ちがいつの間にか恋心に変わっていった。
視線を感じたのか、佐久間が振り向き、どきっとした望に向かって手招きをする。
「和倉、空いているなら、ちょっと手伝ってくれ。今度掲載される記事を見て、雑誌編集者の鈴木さんが、海外挙式を申し込んでくれたんだが、タキシードの形を悩んでいるらしい。俺と背格好が似てるから2タイプの写真を送ってくれと頼まれた。スマホで写真を撮ってくれるか?」
そう言いながら試着室に入り、時間をかけることもなく、白のフロックコートを羽織り、足の長さが強調されるようなパンツに着替えて出てきた。
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