デザイナーズドレス

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デザイナーズドレス

 志貴の車に乗せられて着いたのは、志貴の住む賃貸マンションだった。  割と新しい物件らしく、隣の部屋の音も聞こえないしっかりした造りなので、志貴は気に入っているらしい。  部屋数もリビングとは別に二部屋あり、一部屋を物置、もう一部屋を寝室として使っていて、荷物も少ないことからすっきりと片付いてみえる。  駐車場から抱き上げて連れてこうようとした志貴を何とか思いとどまらせ、3階のフロアでエレベーターを降り、松葉づえをつきながらこの部屋に入るまで、望はどきどきが止まらなかった。  8畳ほどのリビングに置いてあるのは、小さなテーブルを挟んだテレビと、3人掛けのソファーで、アイボリーの合皮のソファーを勧められた望は、端っこにちょこんと腰掛ける。  道を挟んだ前は、戸建てや3階建てのマンションが並ぶ低層住宅地らしく、3階のこの部屋からでも息詰まるような景色ではないことに安心して、望はソフォーの上で伸びあがるようにして窓の外を眺め、気を落ち着かせようとした。  ところが、身体を捻った状態だからか、それともリビングに向かい合ったキッチンにいる志貴を意識してしまうからか、緊張感が抜けきらない。   「飲み物は何がいい?」  突然志貴に声をかけられたのにびっくりして、無理な姿勢を取っていた望はバランスを崩してソファーから落ちそうになり、みっともないところをみられたのではないかと、慌てて志貴の様子を窺った。  幸いにも、志貴は冷蔵庫の中身を確かめながら飲み物のリクエストを訊いたようで、望のあたふたぶりには気づいていない様子だ。  一瞬ほっとしたものの、望は手伝おうにもできないために、自分の不甲斐なさに歯噛みして、せめて手間のかからないものをと申し訳なさそうに言った。 「志貴さんと同じものをお願いします」
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