それは最悪のタイミングでありまして。

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俺は一人、教室の中にいた。 俺は一人、外の風景を見ていた。 俺は一人、風景に自分まで溶け込めないかなと考えていた。 確かに俺は新藤に待ってると宣言したが、この時間は、あまりにも、自分が惨めになるこの時間を過ごすとは、全く想像していなかった。 この時間は、自分が何故こんな風になってしまったのか。 何故今ここにいるのか、何故こんな気持ちでいつもの指定席に座らなければならないのか。 教室の中で唯一自由の許されたこの特等席で、何故俺はこんな気持ちでこの時間を過ごさなければならないのか。 そんな自分に課せられた、まるで監獄のような閉鎖的な時間をどう過ごそうか、そればかりを考えていた。 教室にいることの居心地の悪さを感じたのは、おそらく俺の学生生活の中で初めてだろう。 何事にもどうじない性格だと思いこんで、周りには無関心な方だと思いこんで、誰が誰のことを好きかとか、誰と誰が付き合って別れて、そんなことにはほとんど興味なかった俺だったのに。 お前に出会って、お前と話をして、お前の唇に触れて、俺の中で何かが変わって、何かが始まったんだ。 お前は知らないだろうけど。お前以外で知ってる人もいないだろうけど。 だってそれは、俺だけの不純で汚い秘密なのだから。 もっと綺麗な女に、もっと綺麗な人に、そして、もっと綺麗な存在として、この世に生まれてみたかった。 そんなことばかりを、俺は一人では十分すぎるこの空間で、一番興味のある、一番話をしてみたい、できれば一番傍にいてみたかった同級生が帰ってくるのを、少し目の色を濁らせながら黙々と待っていた。
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