それは予期せぬタイミングでありまして。

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「じゃあ、俺帰る。」 俺は思わず席から立ち上がったので、体が右にふらついてしまった。 力の入っていない俺の左腕を新藤の右腕が素早く掴んだ。 「大丈夫?」 「あ、うん。ごめん、助かった。」 「いえいえいえ。」 少し会釈をして、少し笑った新藤の顔の右頬にえくぼができることを、俺はこの時に知った。 「これから部活?」 「今日は少しだけかな。テスト前だし。」 「さすがですね。サッカー部様は。」 「違うから、そういうのはまじで。」 「そうですか。」という表情をした後に、新藤は目線を窓に向けた。 いつの間にか、夕日が暗闇を連れてくる時間となっていた。 俺はその光景を見ながら、少しだけ、ここを離れたくない衝動を感じつつも、廊下へと近づいて行った。 「川原!」 突然呼ばれて、俺はまたふらつきそうになって、今度は教室のドアに手を少しだけ預けた。 「何。」 「待ってていい?」 「あ、別にいいけど。」 「ここで待ってるわ。」 「じゃあ、終わったら連絡する。」 「連絡先知ってるの?」 「知らないけど。」 「エスパーかと。」 「言ってろよ。」 この時初めて、俺は新藤の連絡先を知った。 これが俺と新藤の、何かが起きる前の、始まりの瞬間だった。
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