ぬくもりが欲しくて

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恋愛には不意に入るスイッチがある。 おれはラウンジで働く君にきいてみた。 「どこでスイッチ入った?」 「あなたがエロティカセブンを歌ったときかな」 恋人同士だから飲む、ロマンティックなジュースか。 ある日は同伴の客をほったらかしにしておれのボックスに来てくれた。 「ますます好きになった」 そうおれは嘯いた。 スマートに遊ぶつもりが泥沼に足を突っ込んでいた。 妻とはセックスレスで、ぬくもりが欲しかったのかもしれない。 やがて醒めるとわかっていても、コーヒー1杯分のぬくもりがほしかった。 小三の初恋以来の胸の高鳴り。もしくは大学の先輩女子に抱いた憧れ。 初恋の方は特別かわいい女の子ではなかったが、一緒に掃除するだけでドキドキし 胸が苦しかった。なにか優しさにふれてスイッチが入ったのだろう。 出逢うのがおそかったのかと悩むときもある。 既婚隠しの後ろめたさ。 心が緊張感をもって息苦しい。 仕事帰り、 おれのエルグランドで君を送ったとき、なぜか大学生以来の恋人繋ぎでシフトレバーを 持つ。スノボに連れていかなあかんみたいな感覚に陥る。 そしてギュッとハグして別れ。 それが一番気持ちが伝わる。ぬくもりを感じて。 憂いを含んだ黒目がちの大きな瞳を見る。 身体に電流が走る。 名湯一回分のぬくもりを味わった。 家路までの運転中、流れる景色を見ながら思う。 どこでスイッチがはいったのだろうか。 ふと今まで送ってくれたラインをチェックする。 ひらがなをまだあまり書けないフィリピン人の君は ローマ字で「aitai」と頻繁に送ってきてくれてた。 その瞬間、きっとこれなのかもしれないと思った。 その時から指名替えをしたのだった。
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