主人公、死ぬ。

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 私は背負っていたブルーのリュックを下ろして中身を空けた。中には旅立つときに用意したフリフリのメイド服が入っている。これは旅立つときにネット通販で見つけて買っておいたものだ。それほど高いものではなかったが、しかしそのデザインは扇情的であざとくきわどくて、ちょうどそのときの私の心の琴線に触れた。そのときが来たらこれを着て旅立とう・・・・・・、そう思ってわざわざ準備しておいたのだ。 「うふふふふ、ちゃんと正装に着替えてから死のうっと」  私は辺りを見回した。ちょうど向こうの崖の横に大きな木が立っている。あの木陰なら、誰にも見つからずに着替えることが出来るはず。何しろこれから美少女に転生しようというのだ。着替えを誰かに覗かれるわけにはいかない。美少女に転生する者は、心の中は転生するずっと前から美少女の気持ちになりきっていなければならない。  私はリュックから取り出したメイド服を手に持って、美少女らしい内股に気をつけながら小さな歩幅で木陰までの短い距離をチョコチョコと歩いた。もうすでに美少女になる心の準備は万端だ。あとは着替えて岩に頭をぶつけて昇天する、タダそれだけで・・・・・・  ズザァァァァ  地面が突然膨らんだ、そんな風に見えた。それは落ち葉に隠されて縄で作られたトラップだった。私はそのトラップに足を取られて転んだ。 「ヒヒヒヒイイイイ、キヒイイイイイ」という奇声を上げて、さっきのクソ坊主が走っていく。 「あ、てめえまだ居たのか。待ちやがれ」  私は転びながらそんな事をいった。しかし私の体はいつまでも転び続けていて一向に手をつくことが出来ない。  ズズズズズゥゥゥゥゥゥ     
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