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「父さま」  それは、こんこんと雪の降る、寒い寒い冬の日だった。  私はちいさな声で父さまを呼んだ。ほとんど何も見えない世界で、父さまの苦しげな吐息の音だけが私の耳に届く。 「こ、はる……」  掠れた声が私の名を呼んだ。父さまはつい先日体調を崩したと思ったら、急激に体力を消耗し、あっという間に寝込んでしまうことになったのだった。  滲んだ視界に、何かが目前に近づいてくるのが見えた。温度を失いかけたそれは私の頬をそっと撫で、そして力尽きるように床へと落ちていく。私は見えない世界を手探りして父さまの冷たい手を掴んだ。 「父さま、父さま、小春はここにおります。ですから、どうか――」  もともと滲んでいた世界がさらにぼやける。  私は喉から絞り出したような声を漏らした。 「どうか、小春を置いていかないでください……!」  母さまを小さいころに失い、幼い頃病気をした時にほとんどの視力を奪われ。そのうえ父さままで連れていってしまうというのですか。  私はどこにいるとも知れない神様に訴えた。  母さま、どうか父さまを連れて行かないでください。小春を、一人にしないでください。  私は天国の母さまに願った。
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