ティー

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 ミルクティー、レモンティー、ストレートティー。どれを暖めようか。この白くて少し大きめなマグカップにはどれがあうだろうか。などとつまらないことばかりがあっちにいいったりこっちに来たり。全く冬になると優柔不断に拍車がかかって嫌になるね。  ふと外を見ると赤いマフラー、赤い手袋、茶色のコートに身を包んだ少女が歩いている。そうだ、どうせなら彼女に合うモノを暖めよう。彼女とマグカップを交互に見比べて何度も何度もシミュレーションする。しかし、どれもしっくりこない。抹茶ラテ、いやダメだ。じゃ、カフェモカは?気が付くと彼女ははるか遠く、ぽつりと山を彩っている。残念だ、本当に残念だ。  肩を落とした僕の目にぼろ雑巾みたいに汚くて、スルメみたいに痩せこけた子犬が飛び込んでくる。犬は嬉しそうに跳ねている。雪だ。贅肉がついた僕の体にはしみるほどに冷たい雪も子犬にとっては元気の起爆剤になっている。微笑ましいね、あんな風に無邪気に駆けまわりたいよ。  何を飲もうか、なんて全く忘却の彼方に飛ばされていた。子犬は何度も跳ねていたのに遂にその体に限界が来たのかパタリと倒れる。僕はその様子をじっと見ている。きっと今にも心優しい少年少女が彼を囲み、その気温よりも冷えた体を毛布で包み優しく手を合わせるのだろうと思っていた。気が付くと日は沈み、日が登り、時計の針は一周している。子犬は、積もる雪を払うこともせず。あいつは僕と同じなのかもしれないね、なんて独り言をいいつつ電気ストーブの前に移動する。子犬はそんな僕にかまいもせずじっとしている。まるで何かを待つように。そろそろ、僕が行ってやろうか。子犬はもうどこにいるのか分からない。雪はすべて平等に降り、平等に積もった。子犬は、どこだ、どこにいる?  チェーンを大仰に巻いてタイヤをがしゃがしゃ言わせながら黒い七人乗りの自動車が来る。子犬はどうして避けないのだろう、なんて考える暇もなくゴンという音が響く。自動車は我関せずといった風に離れていく。  そんな様子を僕は部屋の中からゆらり湯気の立つカップラーメンを食べながら見たのでした。
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