悪路を鷹は行く

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 ざあざあと雨が降る。穢れた己にとって、浄化の雨のような気がしてとても心地良い。己の刀を杖代わりにしてと青年は何処行く宛もなくふらふらとさ迷っていた。肩に羽織った着物は雨に濡れてべったりと肌に貼り付き、濡れた髪は闇の(とばり)のように青年の表情を隠している。肌には至る所に蹴られた跡が無惨な程に残っている。そして、太腿からは僅かに赤の混じった白濁が伝い、本来白磁のように白かった肌に模様を施している様だった。  殺さなかった…殺せなかった。口封じで殺してもいずれは露見するだろうし、殺さなかったからあやつらはきっと俺の所業を言い触らすに違いない。どちらにしても、同胞を傷つけた俺にはもう里に居場所が無い。自分自身で居場所を壊しておいて何とも醜い喪失感ばかりが己を苦しめる。雨が己の穢れを洗い流すが、口の中や身体の中までは自分でしないとどうしようもないようだ。何処か身体を洗う場所はと思った時、小さい泉がすぐ目の前に見えた。重い身体を引き摺りながら何とか泉の畔に来ると、青年は畔にしゃがみこむ。
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