悪路を鷹は行く

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政暁は一瞬少女の方を見て、視線を桔梗の方に戻す。すると、桔梗は政暁の言いたいことに気づいたのか、にやりと微笑んだ。 「分かったよ。ならばそこの君、その濡れた草履をさっさと脱いでお上がりなさい。桃香、早く手に持っているその手拭いを渡しておやり。この御仁が風邪を引いてしまっては大変だ」 「あ……ごめんなさい」 少女は、はっと我に返ると急いで政暁に手拭いを差し出した。 「はい、どうぞ」 「ああ。ありがとう、助かった」 政暁は微笑んで感謝の言葉を口にしながら受けとる。………が、流石に脱いでこの場で身体を拭くのはまずいだろう。うつけと呼ばれようが俺にだって常識くらいあるし、時雨の妹に嫌われると今後が色々とまずい。政暁は顔と頭を拭くと、袴の裾を絞る。すると、濡らした雑巾を絞ったように水が音を立てて地に流れた。これほど雨の中に身を晒したのか、道理で身体が冷えるはずだ。そして足を拭くと、紅原の屋敷に上がった。 「ついてきて。そのままでは寒いだろうから着替えを用意しよう」 桔梗は笑いながらそう言うと、政暁を廊下の奥へと(いざな)った。
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