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「騰蛇からだ。以前時雨が寝込んだ時に聞かされた」
そう言うと、影縄は驚いたように目をぱちくりと瞬かせた。
「あの騰蛇が昔話を………。若君は余程騰蛇に信頼されておられるようですな」
嬉しそうに影縄は頷いたが、怪我が痛んだのかううっと苦しそうに呻いてとぐろを巻く。
「あまり動くな。あの化け狐から怒られるぞ」
そう言いながら、政暁は影縄の怪我をしていない部分をそっと撫でた。蛇の鱗は滑らかで意外と触り心地が良い。そう言えば、この式神は人の形をした時も人のような身体の温もりではなかった。そこまでは真似できないのか。それならば何故人の姿を真似ているのだろうかと疑問がわいたが口にはしなかった。
「すまんな。俺の為に怪我など負わせてしまって。しかし、何故俺を庇ったのだ?」
政暁は影縄を撫でながら独り言を言うように尋ねた。すると、影縄は口を開いた。
「貴方が紅原の仕える相手だからというのもありますが、貴方が怪我をされては時雨様が悲しむからでしょうかね」
影縄は一言そう言うと黙り込んでしまった。当の本人である時雨はまだ帰ってこない。それとも帰ってこられないのか。愛しい懐刀の声はせず、ただ雨音が激しく外に響くだけである。
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