101人が本棚に入れています
本棚に追加
そのすぐ後、桔梗が脇に着流し一式を挟み盆に湯呑みを載せて戻ってきた。
「とりあえずあの娘は来ないように言ったから、ここで着替えてくれ。そして白湯を飲んで身体を温めるのが先だ」
「ああ。ありがとう」
政暁は、着流しを受け取って着替える。と言っても、俺に合うものが無かったのか、つんつるてんで少し恥ずかしくなるのだが。それを見て、桔梗はからかうように笑った。
「時雨のを拝借してきたが、やっぱり小さいか。でも時雨の方が秋也より上背があるから大きいのがこれしかないんだ」
「別に構わないが」
確かに、梅雨の時に時雨に己の城下外出用の着流しを着せたことがあったが、時雨が不満そうにぶかぶかで余った袖を見ていたことがあった。今回はこの逆か。丈が短い上、時雨の身体の線が細いせいかきつくて帯はいつものより緩く結んだ。
「はい、白湯」
着替え終わると、桔梗が白湯の入った湯呑みを差し出した。
「ありがたく、戴こう。………まだ、時雨は見つかっていないのか?」
政暁は湯呑みに口を付ける前に、鋭い瞳で桔梗を見据える。すると、桔梗は悲しげに微笑んだ。
「まだだよ。さあ早く飲んでそれからどうするか話そう」
どうするかなんて時雨を探す以外の選択肢なんてあるのだろうか。渋々と湯呑みに口を付けると熱い白湯を喉に流し込む。冷えきった身体に白湯が染み渡る。冷えきった身体が求めるままに政暁はあっと言う間に最後まで飲み干した。
最初のコメントを投稿しよう!