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「それは本当か...」
明日から護衛の任を一旦降りる事を伝えると、目の前の若君は呆然としていた。俺が頷くと肩を落とし、文机に広げていた蘭学の書物をどけると、文机に突っ伏す。
「俺としてはお前が唯一背中を預けられる存在なんだよ。最近は嫌な夢も見なくなったというのに」
子供みたいにふてくされてそっぽを向く姿に、つい笑ってしまいそうになり堪えると、一呼吸置いた。
「嫌な夢ですか?」
今まで、若君が嫌な夢のことについて口にしたことはない。陰陽術を会得している者にとって眠る際の夢とは重要な意味を持つものだ。念のため夢の内容を聞くと、若君は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そう。まあ...昔の嫌なことだ。お前を護衛に当ててから見なくなってたんだけどな」
「もし私の存在によって若様の悪夢が退けられたのなら、喜ばしいことこの上ございません」
俺の存在が主の役に立っているのかもしれないと思うと嬉しさに思わず笑みが溢れる。
「で、いつここに戻ってくるのだ?」
「半月程だそうです」
長いかと思ったが思ったよりも短く、父から聞いたとき安堵したものだ。それでも、若君にとっては長いらしく少し不満そうな顔をした。
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