夜の国

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一つのテーブルを囲む4人は一般的な『人間』と呼ばれる存在ではない。 言うなら『悪魔』である。 しかし、悪魔とは言っても浅黒い肌をしていたり、コウモリのような翼をもって飛んだり、地下で暮らしていたり…などというわけではない。むしろ物語の中に登場する悪魔よりも人間に近い存在である。 違うところと言えば寿命が千年近くと長いことや、翼はないものの意識の状態になれば人に見られるとなくどこへでも移動することが出来るということ。そして、その長い生涯の中でたった一人の人だけを愛するということだけだろう。寿命が長いということに関しては公共機関の中に紛れ込んだ同胞たちの情報操作によって時々若返ったり、新しい土地に移動して人生をやり直したりすることで誤魔化している。 問題は千年近くに及ぶ生の中でたった一人の相手しか愛することができないということである。その生涯のどのタイミングで一生の相手、ジニーフが現れるか分からない。そのため、悪魔たちは自分のジニーフが生まれると自分のことを愛してくれるよう必死になるのだ。あるものは他に奪われることがないように嬰児のうちに手元に攫ってきて自分だけを愛するように育てた。またあるものは年をとらない自分を悟られないようジニーフに自分の姿を見せず、外見年齢が揃った頃にジニーフの前に現れそのまま結ばれた。 悪魔たちは無条件でジニーフを愛する。けれどジニーフはそうではない。だからみんな必死だった。100年にも満たない短い時間を共に生きてくれるよう、自分にとってたった一人の子孫を残してくれる存在を失わないよう努力していた。 ヴェノムをからかう男も、赤髪の女も共に自分だけのジニーフがいた。しかし、そのジニーフたちも一人ずつの子どもを残し、数十年前にその短い生を終えていた。 2人はその事実に絶望はしたものの、愛する人との思い出を胸に残された時間を生きていく。
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