6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
かかしのはなし
北関東の米どころで、生まれ育った山路君。彼の地元には、奇妙な言い伝えがあった。曰く、
「とある田んぼの案山子と、十秒以上目を合わせてはならない」
その案山子は広大な田んぼの中に立てられており、毎年秋になると新調される。ほぼ等身大の大きさで大人の衣服をまとった姿は妙な威圧感があり、
「目を合わせるどころか視界に入るのも怖くって、子どもの頃は早足で前を通り過ぎていました」
そう、山路君は語る。
「だいたい案山子の顔に、目なんて描かれていないんですよ。のっぺらぼう。なのにその前を通る時は、なんかイヤぁな視線を感じて……。中に人間の死体でも入っているんじゃないかって、噂が立ったこともあるんです」
そんな折り、山路君の同級生のガキ大将・サトシ君が調子に乗って、
「俺が挑戦してやるよ」
と、案山子にガンを飛ばしに行くという暴挙に出た。「たっぷり三十秒、舐めるように睨んでやった」と自慢げに言うサトシ君が、どんな目にあったかというと ――
「夜中に家から姿が消えて、行方不明になったんです。両親が必死になって探したら、その案山子がいる田んぼで口を血だらけにして気が抜けたように立ちつくしているところを発見されて」
サトシ君の両手には、事切れた雀が握られていたという。
「それが毎晩続いたんです」
どんなに見張りを立てておいても、サトシ君は家から抜け出し田んぼで雀を捕まえ、嬉々として噛み殺していた。そして、朝になるとその記憶はなくなっていた。
しかし不思議なことに、七日目の夜からは何も起こらなくなった。
一週間=七日。「七」という数字には、霊的なモノがあると聞いた。初七日、四十九日などは七の倍数だし、七福神、七人ミサキなども思い浮かぶ。
「案山子の呪いは、一週間だったんですかね」
そうかもしれない。しかし気になるのは、そんな不思議な力を持つ案山子が護る田んぼで収穫された「米」の行方である。不気味だと敬遠されるのではないだろうか。
「それが、市場には出回らないらしいんですよ。高額で買い取ってくれる、代々続く顧客がいるとかで」
彼等が大金を積んで手に入れる「米」には、いったいどんな「力」が秘められているのか。
なんとも後味の悪い話である。
【了】
最初のコメントを投稿しよう!