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より厳密に言うのならヘテロの型を成す染色体の劣化と言えるだろう。つまり、男性の染色体が劣化していくという問題に直面していたというわけだ。
人間の生体機能を単純に強化した結果、本来ならば緩やかに訪れるはずであった歪みが、急加速度的に発現するようになってしまったのだ。
さすがにこれには神の存在を感じてしまうサユリであった。
「本当にこの世界は良くできていたのね」
シミュレーションのグラフを眺めながらサユリはコーヒーを啜った。
その瞳は鋭く、肉食獣が獲物に狙いを定めているかのよう。
爛々とした眼光は量子コンピュータのディスプレイのせいだけではないだろう。
「ダメね、これじゃあ永遠の進化は見込めないわ」
永遠の進化――それは各国の研究機関が掲げる最終目標。
生物的限界すら超越し、進化を永遠と続ける超高次知的生命体の誕生。
その目標に爪の先すら引っ掛からないこの状況にため息を吐くサユリであったが、闘志の炎が消えたわけではなかった。
否、むしろ強まっていたと言っても良い。
サユリの心はバックドラフトが起きる直前の室内火災のように、静かに、ただ静かに燃えていたのだ。
「サユリせんせい……いる?」
サユリの自室に鈴を転がしたような声が広がる。そこにはナノスキンスーツに身を包んだ真っ白なアルビノの子供がいた。
「あら、ユウ。どうしたの?」
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