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所長はゆっくりと椅子から立ち上がると、室内をゆっくりとした歩幅で歩く。
「私は長年ここで行われる研究に疑問を抱いていた。いくら新人類を生み出し文明社会を発展させる崇高な目的があるとはいえ、やっていることは非人道的な行いに過ぎない。しかし世間はそれが当たり前だと思っている。私もかつては彼らのように何も感じずに研究に明け暮れたよ。しかし最近はそんな自分を恐ろしく思うようになってしまった。年ってやつだな……」
「はあ……」
所長は疲れた笑みを浮かべると、ため息をひとつ吐いた。
「君は研究員同士の足の引っ張り合いに参加したりすることもなく、淡々と研究をしているだろう? それに一部の実験体は好意的だ。君もあれらには優しくしているね。だからこの研究所の次期所長は彼女だ、と、パトロンへ私が推薦したんだ」
「はあ……」
「もちろん君に現状を丸投げするようなことはしない。私も嘱託としてここに残り君をサポートする。君は快諾してくれれば良いんだ。私の事も、君のその大きな胸で抱き止めてくれれば、私も安心して老いていくことができる」
所長は好々爺とした面持ちで稚児を愛でるようにサユリの胸を撫でた。なんのこともない、所長も世間の俗物の内の一人だったのだ。
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