2人が本棚に入れています
本棚に追加
「やはり見ているだけと実際に触ってみるのとでは違うねぇ。どうだい? この話受けてくれるかい? 悪い話じゃないだろう?」
殺処分か自分の愛人になるか、所長の提示した話はあまりにも自己中心的で粘着質で歪んだ愛情表現によるものだったが、サユリは特に嫌悪感を示すわけでもなかった。
「わかりました。その話、お受けします」
「ああ、それは実に良い答えだ。これで私も肩の荷が下りる」
サユリはサッと身を引くと一礼して所長室を後にした。
「相変わらずつれないなぁ。まあそれが良いんだが」
所長はサユリに触れた手のひらを見つめて、ネットリとした微笑みを浮かべた。
「あっ、サユリ先生」
ベッドの上でぬいぐるみを抱いていたユウが、サユリに気付くなり駆け寄ってきた。
「あらユウ、起きていたのね。体の調子はどう?」
「サユリ先生から元気をもらいましたから、今日のユウはとっても元気なのです。ブイ」
持っていたぬいぐるみの手を動かすユウの姿を見て安堵の息を漏らすサユリ。昨晩のことでユウが落ち込んでいたらと気を揉んでいたからだ。
「サユリ先生、どこに行ってたの?」
ユウの大きな瞳がサユリの姿を映している。その純朴で純白な姿に、サユリの身体は言い様のない熱を持つ。
「先生ね、所長室へ行っていたのよ」
「所長先生のところ?」
最初のコメントを投稿しよう!