見えない猫

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部屋の中を見渡すも狭い部屋で鈴の音が鳴るものなど置いてはいない。気のせいかと思い持っていた携帯電話を机に置き、不動産屋から近くに24時間のスーパーがあると聞いていたので、道の確認も兼ねて日が沈む前にある程度の日用品と夕ご飯を買いに外に出る事にする。 財布をズボンの後ろポケットに入れ、机に置いた携帯電話を再び手に取ればトレーナーのポケットに突っ込んだ。玄関まで行くと再度鼓膜を柔らかく揺らす鈴の音が聞こえた。 部屋の中に鈴はない。僕は首を傾げて耳をすませる。鈴の音は聞こえない。外からなのかと思い、買い出しに出かけた。 外に出て大きく伸びをする。見慣れない景色が視界に広がれば新しい生活に期待と共に不安が溢れる。伸びをして吸い込んだ息は溜息となり僕の口から漏れた。気分が上がらないまま、スーパーへと歩を進めようとすれば、隣の部屋のドアががちゃりっと開く。 ご近所付き合いなんてした事はなかったが、挨拶はするべきだろう。部屋のドアに鍵をかけている隣人に後ろから声をかける。背が高く髪の色は茶色。僕と同じぐらいか、少し年上に見える。 「こんにちは、隣に引っ越して来た藤本( ふじもと)と言います。」 軽くお辞儀をすれば、隣人も軽く頭を下げた。少しちゃらちゃらとした風貌で挨拶をした僕に笑いかける。 「あ、やっぱり隣に人が入ったんやな。隣に住んどる赤澤( あかざわ)言います。」 どうやら、地元の人ではないようで言葉は訛っていた。歳もそう変わらない隣人の気さくな話し方に僕は緊張が和らいだ。 「今から、どっか行くん?道、分からんのやったら案内したるで。おれ今から、スーパー行く所やし。」 明るく人見知りしないのか、気軽に声をかけてくれるのは嬉しかったし、行き先が同じ事を知れば僕は素直にその言葉に甘える事にした。 .
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