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「俺にとってお前は、自慢の妹だったよ」
屈託なく笑う、安心をくれる笑顔を浮かべた兄の姿はもう、そこにはなかった。
夜の冷えた風が通り過ぎていき、もの悲しさだけを残している。
謝る時はいつも頭を撫でてくれたのに、そのぬくもりも、名残も今はない。
結局のところ、あの兄は幽霊だったのか。はたまた悲しみの果てが見せた幻覚だったのか。今となってはどっちでもいい。ただ一つ、最後までどんな兄にも素直になれなかった自分に、嫌気がさした。
ただ、兄には全て伝わっているような気もした。昔から嘘はよくバレるから。きっと本心も汲み取ってくれているだろうし、あの世で、困ったような笑顔を浮かべているに決まっている。
そして言うのだ。「相変わらず、素直じゃないな」と。
これ以上、後ろを向いているわけにはいかない。失ったものばかり数えてはいけない。
これからきっと、失ったものよりも多くのものを手にするのだ。そして、幸せになるんだ。普通の人の何倍も幸せになって、兄の分まで幸せに生きるのだ。
もう、心配なんかさせてやらない。面倒もみさせてやらない。
私の面倒を見るために、色々なものを犠牲にしてくれた兄のために、独り立ちをしなければならない。
立ち上がり、すっかり暗くなった空を見上げる。
そこには無数の星が瞬いていて、綺麗な満月も顔を覗かせていた。それはまるで、兄のために用意された送り火のようで、思わずみとれてしまった。
「自慢の妹だったって……もっと早くに言ってよね。そしたら私だって、もう少し素直になったのに」
足を踏み出し、公園を出る。逢魔が時と一緒に溶けていった、兄の笑顔を想いながらーー…
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