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もしもこの事実を知っていれば、僅かながらでも栞那さんの心を晴らすことができたのかもしれない。そう思った直後、私はある事実に気付き、その不気味さに背筋が凍りついた。
壱弥さんはこのために、夕香さんと約束を交わし調査を進めようとしていたのだ。
つまり、彼が描いた精巧な推理をもとに構成されたであろう道筋と、それを繋ぐために彼が行っていた調査は完璧だったということだ。しかし、それはたった一つの嘘によって崩れ去った。
「もし私が春瀬さんにこのことを伝えてたら、何か変わってたんかもしれません」
自身の過ちを責める夕香さんの凪いだ声に、望さんは反論する。
「それでも、栞那が罪を犯してしまったことは変わらへん。やから僕はもしかしてなんて在りもせんことを考えるんじゃなくて、彼女がちゃんと罪を償って戻ってきた時、その過ちを繰り返さへんように彼女を支えていきたいと思います」
その表情に迷いの色はなかった。
望さんの強かさを耳に、私は彼に言葉をかける。
「……栞那さんに本当の殺意はなかったと思っています」
だからこそ、壱弥さんは警察官のいるあの場所で、痛みを堪えながらも栞那さんに告げた。「あなたに殺意はなかった」と。その彼の行為がどう捉えられるのかは私には分からない。それでもきっと、微かな光はそこにある。
「だから私は、お二人が少しでも早く元の生活に戻れるように、心から祈っています」
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