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「壱弥さん!!」
夜に響く私の声に、彼はふらつく足に力を込めてすぐに体勢を立て直す。そして、立ち上がり駆け寄ろうとする宗田さんを強かに睨みつけた。
「……おっさんは絶対にナラの傍から離れるな。……俺は大丈夫やから」
その声に反し、傷口を抑える彼の右手には鮮やかな赤色が染み付いている。それでも、壱弥さんは目の前に座り込んで震える栞那さんに優しく声を掛けた。
「ごめんなさい、私……春瀬さんを傷つけるつもりなんて……! ごめんなさい。ほんまに、ごめんなさい」
何度も繰り返し謝り続ける彼女に、穏やかな表情を見せる。
「大丈夫です、栞那さん。落ち着いて僕の言葉を聞いてください」
栞那さんはゆっくりと顔を上げた。
「こうなったんは、止められへんかった僕の責任です。あなたに殺意はなかった。……いいですね?」
諭すように告げる壱弥さんの低い声に、栞那さんはこくりと頷いた。
それから間もなく、宗田さんの連絡を受けた彼の部下らしき数名の男性が到着し、力なく座り込む栞那さんの身柄を確保した。
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