繋がるインクブルー

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 九月二十三日の午後、あの夜の事件の後、私は初めて彼の元を訪れた。  あの日、壱弥さんはすぐに近くの救急病院へと搬送された。しかし、想像以上に出血が酷く、緊急で手術治療を受けた今でも輸液や薬剤によって全身管理が施されている状態であった。時折うっすらと目は開けるものの、その意識は水底に沈んだままで、一日の大半を眠りながら過ごしているそうだ。  訪問した病室は深い静寂を纏い、鈍色の空が全体を包み込んでいるような重苦しい空気を背負っている。  私は彼の眠る姿を眺めながら、傍らの椅子で持参した参考書を開いていた。  その空虚な時間は異様に長く感じた。  彼の身体を取り巻く機器の電子音が鳴り響く度に、心臓が跳ね上がり、不安に圧し潰されそうになりながら変動する数字を見つめていた。  十四時を過ぎた頃、病室にある一人の医師が姿を見せた。 「やっぱり来てくれてたんやね」  そう、柔らかい口調で呟きながら白衣を翻す彼は、壱弥さんの兄、貴壱(きいち)さんであった。彼は美しい宝石のような緑色の瞳でモニターを一瞥したあと、薬剤を投与する機械を操作し、慣れた手つきで設定値を変更する。 「ナラちゃん、怪我は大丈夫?」  彼の言葉に、私は忘れていた自分の怪我のことを思い出した。  殴打された左手首の骨には僅かに罅が入っていたそうだ。しかし、大事には至らず、今は簡易の固定をしているだけで、痛みも治まり日常生活に大きな支障はない。 「はい、私は全然大したことないです」 「そうか、よかった」  彼は疲れを解くように白衣を脱ぐと、ベッドの足元に乱雑に投げた。そして、私の隣に深く腰を下ろす。 「今日は、ナラちゃんに渡したいものがあってな」  貴壱さんは微かに目を細めながら、私にそれを差し出した。その瞬間、どくんと心臓が大きく脈を打つ。
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