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想定された状況が大きく変わってしまった今、ここに欠けたピースを嵌め込まなければきっと彼らを救うことは出来ない。どうすれば、この最悪の状況を抜け出すことが出来るのだろう。何か大切な欠片を見落としてはいはないか。
私は鞄の中にあった自身の手帳を開く。
ぱらぱらとページを捲り、記した調査のメモを振り返っていく途中、望さんの筆である「露」の一文字が目に留まった。
何かを思い出す時、壱弥さんはいつも静かに目を閉じていた。それに倣い、ゆっくりと瞼を下ろす。栞那さんに初めて出会った九月十五日の始めから、今日までの記憶を呼び起こし、緩やかにその道筋を辿っていく。
その時、私はある事に気が付いた。
――どうして今まで思い付かなかったのだろう。
頭中で次々と繋がっていく物語に、私は目を開き、強かに覚悟を決めた。
壱弥さんの意志を受け継ぐことができるのは、私しかいない。私が必ず救い出さなければならないのだ。暗く、冷たい部屋に閉ざされたままの彼らを。
「壱弥さん、いってきます」
そう、眠り続ける彼に声をかけた私は、二冊の手帳と瑠璃色の万年筆を鞄にしまい込み、足早に病室を発った。
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