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私は首を大きく振った。
「そんなこと、壱弥さんは絶対に思いません。私も初めは自分が軽率な行動を取らんかったらって思いました。でも、壱弥さんなら『そんなことない』って言うと思います。それだけは分かる。やから、主計さんも自分のこと責めやんとってください」
一つとして虚飾のない、自分の気持ちをそのまま真っ直ぐに彼に伝えたつもりだった。
主計さんは目を大きく見張り、少しの間を置いて、眩しいものを見つめるように私に向ける目を細めた。そして、どこか困った表情で笑う。
「やから僕は――」
そう、幽かな声で呟くと、主計さんは言葉を飲み込むように口を噤み、徐に立ち上がった。
彼の言葉の続きを尋ねるよりも先に、私を見下ろしながらいつもと変わらない涼やかな表情で私に問いかける。
「ありがとう。これから、ナラちゃんが壱弥兄さんの代わりをするんやってね」
天井の曇り空に、明るい青色の空が少しだけ覗く。
私を見据える彼の瞳には、もう翳りの色はなかった。
「僕に出来ることがあったら何でも言って」
そして、その瞳には空の青色が映り込み、深く艶やかなインクブルーを灯しているようにも見える。もしも、本当に彼が欠けたピースを埋める手助けをしてくれるのであれば。
「主計さんに一つだけお願いがあります」
私は彼の言葉にゆっくりと頷き、大切な願い事を告げた。
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