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「そっか、ナラちゃんは僕たちの関係に気付いたんやね」
彼の台詞を耳に、音もなく着席した夕香さんもまた、私の顔を見遣る。
私はあらかじめ準備を整えていたお茶を二人に差し出したあと、その向かい側に腰を下ろした。
「はい。ですが、調査をしていたのは私ではなく壱弥さんです。今日は、お二人と栞那さんとの間に何が起こったのか、事件の真相を確かめ、彼女が望さんに伝えたかったことをお話したいと思います。そのために、主計さんに連絡をお願いしてこちらへお越しいただきました」
病院のエントランスで主計さんに会ったあの日、彼は私が壱弥さんの助手として依頼を完遂させることを知り、力になりたいと言ってくれた。その優しさに甘え、私は彼の言葉を受け入れた。そこで思い付いたのが、連絡先の知らぬ二人をここへ呼び出してもらう連絡役を頼むことであった。
私の言葉に、望さんは怪訝な表情を見せる。
「栞那が僕に伝えたかったこと、ですか……?」
疑念を抱くその様子から、望さんは栞那さんの本当の心に気付いていないのだということがわかる。
このまま彼に本当のことを伝えなければ、この事件は彼らにとって疚しい負の出来事として記憶に刻み込まれ、夫婦関係をぎこちのないものにしてしまうだろう。そうすれば、彼らだけでなく親しい関係にあった主計さんや夕香さん、そして依頼を受けた私たちでさえも自分の言動を呪い、心に傷痕を残してしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなければいけなかった。
「……そのためにもまずは、栞那さんの周囲で何が起こったのか確認させてください」
私は机上に置いていた壱弥さんの手帳を拾い上げ、ゆっくりと開く。
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