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「壱弥さんが使用していたこの手帳に、お二人がかつて恋人同士であったことが記されていました。それは間違いありませんか?」
ほぼ同時に二人は私の質問を肯定する。
彼の歪な文字を辿っていくと、そこには確かに「清原夕香」の名と共に、二人の過去の関係が記載されていた。それは彼らが大学生だった頃の話ではあるが、二人の接点は確かにそこに在り、互いのことを良く知る理由に他ならない。
しかし、彼女についての記述はただそれだけであった。過去の関係や、二人の親しい様子を見ると、彼女が有力な手掛かりを握っている可能性は否めないはずだ。それなのに、二人の現在の関係を示唆する記述はどこにも見つからず、その真相は明らかにされていない。
必死に手掛かりを探していたであろう状況で、壱弥さんがこの可能性を見落とすなんてことは万が一にもあり得ない。
ならば、考えられる答えは一つだけだった。
「夕香さんは、本当は壱弥さんと会う約束をしてはったんやないですか」
事務所に差し込む太陽の光が僅かに翳ったような気がした。彼女の顔が強張るのが分かる。
ほんの少しの間を置いて、彼女は視線を左右に泳がせたあと、微かに震える声で言葉を紡ぎ始めた。
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