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「ナラちゃんの言う通り、二十日の朝に春瀬さんとお会いする約束をしていました。でもその日は台風で朝から天気も悪かったんで、また後日にお会いすることになったんです。やけど、春瀬さんがあんなことになってしもて……」
夕香さんの声が徐々に小さくなっていく。
きっと、壱弥さんは彼女と直接言葉を交わし、二人の関係性を更に深く調査するつもりでいたのだろう。しかし、それは悪天候によって阻まれ、その後彼が事件に巻き込まれてしまったが故に、調査は未完遂のまま滞ってしまったということだ。
「夕香さんは彼がどんな話をしようとしてたんかは、ご存知やったんですか?」
「はい。初めて連絡をもらった時に、望のことについて聞きたいって仰ってたんで」
やはり、と確信をもって言葉を続けようとした時、隣で静かに耳を傾けていた望さんが、思い立ったように顔を上げた。
「春瀬さんは疑ってはったかもしれませんけど、今の僕らに疚しい関係はありません。大学卒業後に別れてから今年の夏にたまたま会うまで、連絡も取ってなかったくらいです」
まるで何かを取り繕うように、望さんははっきりとした口調で夕香さんとの関係を否定した。私はそれを真っ直ぐに受け止める。
「お二人に浮気の事実はない。私もそう思ってます」
それは単なる憶測などではない。望さんの過去の行動を辿ってみても、浮気に繋がる新しい事実は浮上しなかった。そう、彼が単独で行っていた調査結果にもしっかりと記されている。
それならば、何故夕香さんとの関係を調査する必要があったのだろうか。
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